人を動かすファシリテーション〜対立する参加者〜

 

業績低迷中のSakata計器社では、営業担当者のヒアリング力不足が問題だと考えられていました。それを解決する施策を考えるために、会議が開かれました。

最初に解決策を提案したのは、教育部門の山本部長。ヒアリング力向上研修に、営業担当者を参加させるべきだと主張しました。

一方、営業部門の中川部長は、研修に参加するだけの時間を確保できないと反論。それよりも、現場でメンバー同士がフィードバックし合う仕組みを作る方が効果的だと主張しました。

お互い、相手の案を悪く言うばかりで会議は進みませんでした。後日、仕切り直しの会議が開かれることになり、人事部門の三田さんが、会議のファシリテーターとして参加することになりました。

 

対立する参加者に有意義なディスカッションをしてもらうため、三田さんは次のような言葉をかけました。

 

「山本部長、中川部長、お疲れ様です。今日は私をファシリテーターにお招きいただき、ありがとうございます。

事前にお二方の提案内容を拝見しましたが、どちらも営業担当者のヒアリング力不足を解決するために真剣に考えられたものだと感じられました。

いま、営業現場では、ヒアリング力が不足していることによる問題が出ているとお考えでしょうか?」

 

2人の部長は「はい」と答え、お互いが感じている問題点を話し始めました。今回は、お互いを悪くいうことはなく、建設的な意見交換がなされました。

 

使用した原則は、"まず「イエス」と回答する質問をする"です。

お互い感じている問題点は同じで、どちらも営業担当者のヒアリング力を向上させたい。ただその手段が異なっているだけだということを認識させたのです。

お互いに敵ではなく、同じ問題解決をしようとしている仲間という一体感を生み出すために、まず参加者皆んなが「はい」と答えられる質問をしましょう。

人を動かすビジネスメール〜社員からの依頼を断るとき〜

 

企業の総務部門に勤める山代さんのもとに、社員Bから年金の問い合わせが寄せられました。

「一時金で受け取る場合と、年金で受け取る場合、それぞれ税金はいくらになりますか?」

 

税金の計算は、個人の収入や控除内容によって一概に損得は言えません。

詳細に計算すれば算出できますが、手間がかかるため、社員一人ひとりには対応するのは難しいのです。社員Bを失望させずに依頼を断わるためにはどのようにすれば良いでしょうか?

 

☆mimuraの提案☆

 

山代さんは次のようなメールを送りました。

 

「Bさん

お問い合わせいただいた年金ですが、個々人の収入や控除内容によって、損得が異なるため、
何とも判断が難しいのが実情です。

金額については気になるとは思いますが、
お力になれず申し訳ありません。


なお、インターネットには以下のような計算サイトがありますので、こちらを利用されると、おおよその額はわかるかもしれません。
宜しければご参考ください」

 

使用した原則は、"批判、非難もしない。不平も言わない"。そして、"共感する"です。

 

山代さんは内心、面倒なことを依頼されたと感じていましたが、ただ単にできないと断るのではなく、お詫びの一言を入れています。

そして、税金が気になっているという相手の気持ちに共感することで、敵ではないという安心感を生み出しています。

人を動かす電話対応〜予約〜

新谷さんは、手相占いを予約していましたが、前日になって、予約していた時間の都合が悪くなりました。予約時間の変更を依頼するため、お店に電話をかけました。

 

担当者「もしもし、占いの館です」

 

新谷さん「あのー、明日の17時に…」

 

担当者「あー、先にお店の名前を言ってくれる?ここは4店舗共通の電話番号だからさ」

 

新谷さん「あ、すみません。富士見店です」

 

担当者「先生は誰?」

 

新谷さん「ゆり先生です」

 

担当者「で、何時を希望?」

 

新谷さん「あ、いや、すでに明日の17時に予約を取っていて、変更が可能かをお聞きしたくて…」

 

担当者「あ、もう予約取ってるんですね?」

 

担当者はてっきり予約の電話だと決めつけていたようです。話を聞いてもらえなかった新谷さんは不快な気分になりました。

 

☆mimuraの提案☆

 

相手の話に耳を傾ける。相手が話しているあいだは、こちらから遮らずに、最後まで聞く。とてもシンプルですが、これだけで信頼を損なわずに済むのです。

 

担当者「もしもし、占いの館です」

 

新谷さん「あのー、明日の17時に予約を取っている者なのですが、時間の変更は可能でしょうか?」

 

担当者「もちろん可能ですよ。予約されたお店を教えていただけますか?」

人を動かすアナウンス〜試験会場の移動〜

ある日のTOEIC試験でのこと。試験会場である大学の教室では、大勢の受講生が、数分後に迫った試験の開始を待っていました。

試験開始の3分前になって、突如、試験の責任者が教室に入ってきました。

 

「今日は空調設備が利用できないため、途中、教室が蒸し暑くなるかもしれません。新しい教室を用意したので、移動したい人はいますか?」

 

たしかに、教室には多くの受講生が居ましたが、そこまで暑くはありませんでした。何より、試験直前で集中していたので、教室を移動することは面倒だと感じたのでしょう。手を挙げた受講生は2人だけでした。

 

責任者は次にこう言いました。 

「この教室の受験人数を減らしたいので、この列とこの列の方は別の教室に移動をお願いします」。

 

責任者にそう言われたら、仕方ありません。受講生はしぶしぶと移動しました。

 

 

☆mimuraの提案☆

 

人を動かす原則、「強い欲求を起こさせる」ことや、「重要感を与える」を実践してみましょう。

責任者は部屋が暑くなるかもしれない点は伝えられていましたが、それが不快感につながるということまで伝え、重要感を強めてはどうでしょうか。

そして、受講生が絶対に避けたい「スコアが下がる可能性」を伝えてみてはどうでしょうか。

 

「試験直前に申し訳ありませんが、皆さまにとって重要なお知らせがあります。

本日、この教室は空調設備が利用できません。

これだけ多くの受験生の皆さまがいらっしゃると、試験中に熱気がこもり、不快に感じることがあるかもしれません。それによって皆さんのスコアに悪い影響を及ぼすことは避けたいと思います。

新たに隣の教室を受験会場として用意いたしました。一部の受講生の方にそちらへ移動いただけたなら、室温を気にせず、快適に受験することができます。ぜひ、この列とこの列の方はご移動願えませんでしょうか」

 

 

 

人を動かすビジネスメール〜部下のヒアリングが甘かったとき〜

人事部に所属する有村さんは、社員に異動先のヒアリングをするのが担当業務です。

ある日のこと、社員Aへのヒアリングを本日中にするよう上司から命じられました。

有村さんはすぐに予定を調整し、社員Aにヒアリングを実施。その内容をレポートにまとめました。

2時間ほど残業して対応したため、すでに上司は退社しており、レポートはメールで提出しました。

 

翌朝、有村さんがメールを開くと、上司から返信メールが届いていました。そこには「君のレポートは中途半端だ。こんな内容で会社に判断を求められても困る。追加のヒアリングを本日に行うように」というメッセージが。

 

これを読んだ有村さんが、暗い気持ちになったのは言うまでもありません。

 

☆mimuraの提案☆

たしかに、有村さんのレポートは内容不十分でした。

社員Aが異動したいのか、異動したくないのか、意思をはっきり決めきれなかったのを、そのまま報告したのです。

これは、異動を決定する会社側からすると、あまり役に立つ情報ではなく、不満を言いたくなるのも当然です。

 

では、どうすれば有村さんに気持ちよく行動してもらうことができたでしょうか。

デールカーネギーは、「人を動かす」で次のように述べています。まず褒める、そして遠回しに注意する。

 

 

次のようなメール文章にすると、有村さんも前向きになれたのでは無いでしょうか。

 

ヒアリングのレポートを確認しました。迅速に対応してくれてありがとう。内容について理解できなかったところがあるので教えてください。Aは異動したいのか、残りたいのかどちらなのでしょうか」

 

レポートの内容が不十分だとダイレクトに指摘はせず、ちゃんと書いてくれているが、自分の理解が追いついていないというニュアンスを出しています。

 

さらに効果を高めたい場合は、相手への投げかけや励ましの言葉も有効とされています。

 

「会社にとっても本人にとっても悔いのない異動を実現するためには、本人の意向をもう少しはっきりさせておく方が良いと思いますが、どうでしょうか?

本人が迷って決めきれないのかもしれませんが、君ならうまく導いてくれると信じています」

 

 

このような回答は回りくどい、面倒だと思うかもしれません。それでも、最初のメールよりは、有村さんも気持ちよく動き、上司にネガティブな感情を持つこともないでしょう。

 

人を動かす接客〜クリーニング店〜

ある秋のことです。衣替えをした山形さんは、夏用のスーツをクリーニングに出しに行きました。

お店に入り、カウンター台にスーツを載せ、店員にクリーニングを依頼しました。

 

山形さん「 このスーツを汗抜き加工でお願いします」

    店員はスーツの上着を広げ、洗濯表示を探しながら

店員「会員カードをお願いします」

 

山形さん「あ、すみません」

    焦ってカードを出す山形さん。

   引き続き、作業を続ける店員。

 

山形さん(何だよ、顔も見ずに失礼だなぁ)

 

    店員、洗濯表示を見つけるも、顔は洗濯表示に向けたまま

    

店員「汗抜きできる生地かどうかは、工場判断になります。もしできなかった場合は、後からその分の料金をお返しすることになりますが、それで宜しいですか?」

 

山形さん(え、何だよ、できないかもしれないのかよ…それなのに悪びれた様子がないなんて)

「はい…わかりました。それでお願いします…」

 

 

汗抜き加工ができないかもしれない事は、店員のせいではありません。しかし、ちょっと言い方を変えるだけで、山形さんの心証も変わったことでしょう。

 

☆Mimuraの提案☆

 

人には承認欲求があります。まずは依頼内容を受け止めてはどうでしょうか。

 

山形さん「スーツは汗抜き加工でお願いします」

店員「汗抜き加工ですね。承知しました」

 

 

汗抜き加工ができないとしても、店員に非はありません。しかし、一度相手の立場に立ってみましょう。わざわざスーツを持ってきて、汗抜き加工ができないと言われたら、ショックを受ける人もいます。

そんな相手の気持ちに共感し、申し訳ないという一言をかけてみてはどうでしょうか。

 

店員「お客様、大変申し訳ないのですが、実は汗抜き加工をできるかどうかについては、お店では判断できず、工場での判断となります。いったん工場に出してみて、できなかった場合には返金ということになりますが、宜しいでしょうか?」

 

山形さん「ふ〜ん、そうなんですか。わかりました。それで良いですよ」

 

 

山形さんはカードを出し忘れていたわけですが、そのことを非難するような言い方をされると、気持ちよくはありません。

ここは、出し忘れとは決めつけず、もしかしたら何か出せない原因があるのではないか、と視野を広げて捉えましょう。

 

店員「ありがとうございます。それでは受付させていただきますね。お客様、本日は会員カードはお持ちでしょうか?」

 

山形さん「あ、すみません。出し忘れてました。ここにあります」