人を動かす〜企業アポイントの依頼〜

IT企業の業務部に勤める高山部長は55歳になり、第二の人生を考え始めていました。彼は数年後に独立することを前提に、企業コンサルタントの資格を取得しました。

 


しかし、いきなり独立するのは不安があります。何かしら経験を積んだうえで、独立するのが彼の理想でした。そこで、試験的に何度かコンサルティングを実施しようと考えました。しかし、普段の業務では社内の人間としか関わりがないため、どのようにしてコンサルティング先を見つければ良いか、全く見当がつかずにいました。

 


そのような折、高山部長はマーケティング部の若手社員である長野くんが、すでに企業コンサルタントの資格を持っているという情報を掴みました。これはチャンスだと感じた高山部長は、長野くんを食事に誘いました。コンサルティングを実践するための、ヒントになる情報を引き出そうとしたのです。

 

いざ、食事をしながら長野くんの話を聞くと、彼は5年前に資格を取得しておりましたが、コンサルティング活動は特にしていませんでした。長野くんはまだ30歳であり、独立に向けた準備はもっと先のことだと考えているようです。

 

2時間話した結果、長野くんからは資格の維持や更新の方法については有効な情報を聞けたものの、企業にコンサルティングを実践するという真の目的についての情報は得られませんでした。

 


高山部長は焦っていました。「若い長野くんはゆっくり構えていてもいいが、もう55歳である私は、グズグズしていると定年を迎えてしまう。第二の人生のスタートダッシュに失敗してしまう」そう感じていました。

 

 そこで高山部長は、次のように切り出しました。

 

 

 

 


高山部長「今日は様々な情報交換ができましたね。またぜひこのような機会を持ちましょう。でも実際に企業に出向いて、コンサルティングをしたいなぁ。長野くんが営業している取引先で、コンサルティングさせてくれるところはない?」

 

長野くん「えっ…まぁ、相談できそうな取引先の社長はいますが…」

 

高山部長「よし、じゃあ次回はその企業にコンサルティングをしてみようよ」

 


長野くん「えっ、えぇと…」

 


高山部長「な、頼むよ。アポイントの調整よろしく!」

 

長野「はぁ、わかりました…」

 (何だか、いきなり面倒な仕事を押し付けられてしまったなぁ…コンサルティングするのは嫌では無いけど、自分がしたいからって強引に話を進めてきて、高山部長は何もしないなんて何か腑に落ちないなぁ…)

 

 

 

 

☆人を動かす~企業アポイントの依頼~

 

早く経験を積みたい高山部長の必死さはわかりますが、ちょっと強引だったのかも知れません。

もし、相手にもそうしたいと思ってもらうことができたら、もっと長野くんも前向きに幹事を引き受ける気になったのではないでしょうか。ポイントは質問をすることです。

 

 

 

 


 高山部長「今日は様々な話を聞かせてもらって勉強になりました。ありがとう」

 

長野くん「とんでもありません。こちらこそお誘いいただき、ありがとうございました。」

 

高山部長「私は2~3年のうちに企業コンサルタントとして独立するつもりでいるのだが、長野くんはどう考えているの?」

 

長野くん「そうですね。私もいずれは独立できたらいいなぁと思いますが、まだあまり具体的に考えたことは無いですね」

 


高山部長「そうか。いずれは独立したいと考えているんだね。もし独立するなら、いきなり独立するのはリスクがあるだろうから、事前に試験的に実践を重ねるのがいいかな?」

 

長野くん「そうでしょうねぇ。いきなり独立して、仕事が取れなかったら怖いですからね」

 


高山部長「やはりそうだよね。事前に経験を積んでおくことは大事だよね。せっかく資格も取ったのだし、いずれ独立を考えているのなら、長野くんも今から少しずつでもスキルを磨いておいても損にはならないのじゃないかな?」

 

長野くん「おっしゃる通りですね。とくに今まで何もしてこなかったですが、何か経験しておくに越したことはありません」

 


高山部長「そうだよね。せっかく習得したスキルも使わないと錆びついてしまうしね。スキルアップのためには、どんな活動をするのが効果的かなぁ?」

 

長野くん「んー、やはり企業に訪問して、実際にアドバイスをしてみることでしょうね」

 

高山部長「なるほど、いいねそれ!我々でもアドバイスできるかな?」

 

長野くん「私はマーケティングの経験がありますから、コンサルティング先の競合相手や市場分析をして、コンサルティング先にとって有効なマーケティング戦略などを提言できるかもしれないですね」

 


高山部長「なるほど、それはできそうだね。他にもあるだろうか?」

 


長野くん「そうですね。高山部長は会計業務をされていますから、コンサルティング先の財務諸表を見て、数値の悪い経営指標を見つけることはできるんじゃないでしょうか」

 

高山部長「たしかに。それもできそうだ」

 

長野くん「あとは、社長にヒアリングしたり、ホームページをチェックしたり、現場を視察したりして…」

 

高山部長「うんうん」

 

長野くん「会社の方向性とホームページのデザインが一致していないとか、売れ筋商品が、店舗で目立つところに配置されていないとか、何かしら改善点を見つけられるかも知れないですね」

 

高山部長「そうだね。社長も気づいてない問題点に、我々が第三者の視点で見ることで気付けるかもしれないね」

 

長野くん「そしたら社長と一緒に解決策を考えたりして…面白そうですね!」

 

高山部長「我々でも何かしら役に立てそうだな。そうなると、あとは実際にコンサルティングする企業だが、それはどうやって見つけるとよいのだろうか?」

 


長野くん「そうですねぇ…私の取引先で懇意にしている社長が何人かいますので相談してみますよ」

 


高山部長「おぉ、そうか!それはありがたい」

 


長野くん「いえいえ、私もスキルを磨きたいですし。いやぁ、実践するのが楽しみですね!」

 

 

 

~使用した原則~

その考えを自分の考えだと思わせる

命令をせずに、質問をする